私のキャリアと事業のコンサルティングレビュー
(日本生産性本部茗谷倶楽部会報第76号寄稿文)
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三輪知生(経営塾2期)
3.これからの取り組み
私がこのような人生の歩み方(=キャリアプランの実践)をしてきた原点は、米国イリノイ州立大学に交換留学した際に受けたキャリアカウンセリングにあります。今でこそ、わが国においてもキャリアカウンセリング/コンサルティングは定着してきましたが、進路指導にとどまらず、その後の人生を規定するだけの影響力を与えられているかどうかは定かではありません。私にとっては、人生設計の基盤構築に多大なる影響を与えたのでした。
カウンセラーからアイスブレーク後に発せられた第一声は「あなたのキャリアゴールは何ですか?」というものでした。キャリアゴールという概念を知らなかった私は、逆にたくさんの質問を投げかけたのを今でも覚えています。「身近な周囲に流されることなく、しかし環境の変化や時代の流れには敏感に、キャリアゴール=仕事を通してどのような存在になりたいかを自ら設計して、一歩ずつ着実に進んで行きなさい」とアドバイスされました。
キャリアゴールは漠然としていても良いとのことでしたので、カウンセラーともトコトン対話した上で「経営のプロになる」と設定することにしました。「その答えを見つけるために、そして実現するために、これから世の中と関わり仕事を選び、ステップアップしながら人生を自ら切り拓いて行きなさい」と伝えられ、その考えの元に今の自分があります。そしてこの考え方を、今では大学や高校から依頼される講義で学生・生徒達に伝えています。
地方創生を考えるとき、私にとっての大命題は「日本の空洞化への対処」です。途上国経済が発展する一方で、わが国の産業構造基盤は疲弊して脆弱となり競争力を失いつつあり、一部の領域では完全に他国に凌駕され始めています。製造業の労働生産性水準という観点からは2000年代に入ると大きく後退し、かつての優位性を失ってしまっています。わが国が培ってきた強みである、モノづくりの現場力さえも影が薄くなってきているのです。
経営コンサルタント塾を修了して13年が経過し、「日本の空洞化への対処」をするべく地方で産業振興の現場を歩み続け、今日に至ります。霞ヶ関を起点として地方創生が喧伝されるなか、「地方が豊かにならない本当の理由」=地方創生の制約条件(実現の妨げとなる理由)が見えてきました。そこには3段階に渡って人々の前に大きく立ちはだかる、目に見えない3つの壁が制約条件として存在し、解消しなければ地方創生は実現しません。
まず一段階目に立ちはだかる3つの壁は、
①知識の壁:異動も早く、どうすれば良いのか分からない、ノウハウがないからできない等
②意識の壁:新しいことは苦手、前例を変えることは忌避したい等
③組織の壁:部署別に事業費が予算化されており縦割りである等です。
これからの壁を解消するには、情報発信や啓蒙啓発が不可欠です。それら制約条件を解消するためには、法律や制度の改正も必要になってくるのではないでしょうか。
さらに第二段階目に立ちはだかる3つの壁は、上記の組織の壁の深堀りにもなりますが、
①行政区域間の壁:歴史的にも体制的にも予算的にも独立している
②行政と民間の壁:組織風土や就業意識等が根本的に異なっている
③既存団体との壁:機能と役割を担っているとされる従来からある組織の存在です。
地方創生が国や地方の予算を起点に実行されていく以上、従前の組織や体制自体が制約条件となる事例を数多く目にしてきました。
そして第三段階目に立ちはだかる3つの壁は、
①現実の壁:地元の実状に則した新たな取り組みかどうか
②資金の壁:必要となる資金が経済合理性のもとで調達できるか
③市場の壁:実際に定着して普及浸透するものかどうか等です。
過去の成功体験を元に将来の意思決定をしたり、実現可能性の検証なしに補助金・助成金を投下したり、時代背景や外部環境の異なる他地域の成功事例を盲目的に導入したりといった事例も散見されます。
わが国の強みであるモノづくりの現場力=持続的な改善活動による高効率化は、量産工場が海外へ移転し、技術革新が飛躍的に進む今日、生産性向上の必須要件として最重要ではなくなりつつあるとさえ言えるでしょう。新たな付加価値を生み出し続けていかなければならないわが国のあるべき姿と、競争力を失いつつある実情とを鑑みるに、9つの制約条件の解消とイノベーションの創出を、これからのテーマとして取り組んでいく所存です。
こうした経歴とこれまでの実績が認められ、この10月1日より日本生産性本部と新たな委託業務契約を締結して「地方創生カレッジ総括プロデューサー」の肩書で活動をスタートしました。地方創生カレッジは内閣府が予算事業として構築する、地方創生の担い手を育成するためのeラーニング講座です。150以上の講座を無料で学べるとても優良なコンテンツの数々が存在し、この普及促進のための企画運営を生産性本部が担っています。
永年活動してきた岐阜県をモデルケースとして、地方創生の担い手を育成し、真の地方創生を実現するための事業を立案し、地方創生をテーマとした生産性新聞への記事掲載(6回連載)ならびに岐阜県内の実態調査を今期中に実施します。昨今「生産性」が何かと注目されるなか、企業を対象とした経営コンサルティングの枠組みを超えて、地域を豊かに、人々を元気にするために、これからも本部の一員として誇りを持って邁進して参ります。