地域発!現場検証シリーズ[SDGs・サーキュラーエコノミー]
国は、地域の自主性及び自立性を高めるための改革を推進している。一方で、地方自治体には地域の実情を正確に把握して課題を的確に認識する洞察力と、適切な解決策を策定して迅速に対処していく実行力の涵養が求められる。VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)の時代と言われる今日、岐阜県内で既に自主性及び自立性の高い政策を実施している三つの基礎自治体を紹介する。
1.恵那市-地域商社による振興策
東濃地域に位置する恵那市は、内閣府地方創生推進室より『「住みたい田舎」であり続ける観光・交流・定住・安住・共生の恵那ライフ-ENA遺伝子の継承と伝達-』を提案タイトルとして、令和四年度SDGs未来都市に選定された。また、同時に「恵那発たべるSDGsモデル構築プロジェクト~ 恵那ふうど = FOOD×風土 ~」が自治体事業モデルに選定されている。
持続可能なまちづくりを進めていくためには、行政だけでなく地域住民や企業とのパートナーシップのもと、経済・社会・環境の三側面から統合的に取り組むSDGsの理念が益々重要になっており、恵那市はこれまでにも数々の公民共創のまちづくりに取り組んできた。その一つに、地方創生推進交付金を活用した地域商社の一般社団法人ジバスクラム恵那がある。
ジバスクラム恵那は、恵那市と恵那市観光協会が共同出資して2020年1月に設立。本年3月には観光地域づくり登録法人(登録DMO)として観光庁に認定された。世に知られていない恵那の優れた産品や観光資源を国内外に売り込む団体として官民一体となって日々活動に邁進し、インターネット経由で農産品を販売する取り組みは全国放送にも取り上げられた。
地元産野菜を「恵那山麓野菜」と命名してブランディングに取り組み、ROBOZ社主催のドローン撮影の動画コンテストで地域の魅力を発信するなどの活動は次第に認知度が高まり、自主運営サイト「Aeru」へのアクセス数も右肩上がりだ。地域特性を活かしたアウトドア・レジャーによる地域の活性化にも民間企業との連携で取り組み、関係人口・交流人口増に貢献している。
利用者数が伸び悩んでいた国民宿舎に恵那市がグランピング施設を併設するなどしてテコ入れし、「根の上アウトドアパーク恵那 保古グランピング」の名の下で、今後は登録DMOとして運営に関するコンサルティングも行いながら伴走型で活性化に取り組んでいく。こうした取り組みは、官民の連携とともに市役所が部門間を横断して事業推進する体制があるからこそ実現している。
地域商社と並走して、恵那市はワンストップ相談窓口として「恵那くらしビジネスサポートセンター」を開設し、「暮らしと商いと働くの相談所」として移住定住から経営相談そして就職相談まで、部門間を横断した相談事業を展開している。学生の地元定着やシニア世代の再就職など幅広い世代を対象としており、今年度は重点的に事業者のDX化への支援策を進めている。
2.多治見市-TMOからDMOへ
夏には日本一暑い街として報道されることもある多治見は、東濃地域の特産品である美濃焼の集積地として栄え、陶磁器の卸売=商業を中心として発展してきた。かねてより多治見市では、産業展示会としての「き」業展の開催や、インキュベーション施設である起業支援センターの事業運営を公民共創のもと実施し、産業・観光振興に取り組んできた。
2019年より、優勝賞金として「まちなかグランプリ」300万円、「創業グランプリ」200万円を授与する「たじみビジネスプランコンテスト」を主催し、応募は全国各地から寄せられている。また、多治見の市街地を舞台としたアニメ「やくならまぐカップも」を通したロケツーリズム事業に取り組むなど、「にぎわいと活力のあるまちづくり」に積極果敢に挑戦し続けている。
本年度の事業として、観光協会の機能強化と中心市街地活性化との連携強化を図るべく、多治見市観光協会がこれまで中心市街地活性化を主導してきたまちづくり会社2社(華柳/多治見まちづくり=TMO)を統合するという大胆な組織再編に打って出た(通称「たじみDMO」)。商店街振興で培ってきた活性化ノウハウを、観光振興に振り向けて展開していくことが期待されている。
紙媒体で発行してきた地域情報誌「A2(あっつう)」を、より広く伝達するべくWEB上でも展開することからスタート。また、これまで中心市街地活性化=商店街振興策として取り組んできた空き店舗・空きビルのリノベーション事業を、観光振興策として宿泊施設に展開していけるか模索しており、不動産の流動化に向けた調査と手法に関する研究に着手した。
3.山県市-基幹産業の牽引力強化
県庁所在地の岐阜市に隣接する山県市は、自然環境に恵まれた風光明媚な街であり、近年は明智光秀ゆかりの地として注目を集めた。第二次大戦禍で都市部の工場が消失して山県市美山地区に製造工場が建設された経緯から、水栓バルブ関連産業の集積地が形成されることとなり、養蚕業衰退後の地場産業の発展を支え、市の基幹産業となって今日に至っている。
地方創生推進交付金を活用して、山県市は水栓バルブ業界支援事業を平成29年度から本年度まで、三年ごとの二期間に渡って実施している。基礎自治体が特定の業界を対象として個社にまで至る支援事業に取り組むことは珍しく、生産性向上や新市場開拓、環境規制対応や人材確保・人材育成など業界が直面する課題の解決に向けて、官民一体となって事業を推進している。
いずれの市も、地域特性を活かして持続可能なエコシステム=好循環型社会の構築に向けて邁進していることが見て取れる。