地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業
(日本生産性本部茗谷倶楽部会報第77号寄稿文)
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三輪知生(経営塾2期)
4.公的機関に蔓延する機能限界
筆者は6年間にわたる産業振興分野における公的支援の場において、民間の企業人からは到底想定すらできない、経営コンサルタントの視点として違和感を抱く、見えない壁がさらに重層的に存在することに次第に気づき、やがてそれは確信に至りました。そもそも、組織が業績向上を図る際に、定量的な数値目標を定めてその達成を目指すのは当然です。一方で、実現を妨げる要因=制約条件に着目して解消を目指すこと、あわせて定性的な指標を持つことも中長期的な視点でとても重要です。こうした事象が公的機関では表層的にのみ語られています。
組織内に、健全な成長を妨げる制約条件(=さらなる三つの壁)が潜在的に存在していることは、地方創生カレッジの現代経営学研究所(神戸大学)による『DMO特別講座』においても指摘されていますので、その引用から分析を進めましょう。まず一つ目に立ちはだかる壁とは「行政区域間の壁」です。予算が行政区域単位で、そして部門単位で縦割りに組まれていると、観光などの広範囲な地域と分野を包括している事業を遂行する際に、圏域や部門間を横断的に活動することが難しいというものです。産業振興の場面でも同様の壁に遭遇しました。
次に立ちはだかる壁は「行政と民間の壁」です。行政は事業予算を組んでその執行を推進しますが、その財源は税金や交付金であり、そこに事業収益を確保する発想はありません。民間は自社の事業収益を源泉として新たな投資に仕向けます。行政による公共の利益や福祉の理念と価値観が、時として民間による経済合理性への準拠の論理と乖離して問題点として指摘される事案も、官と民を金銭でつなぐ補助金などで散見されます。本当に必要とする事業者へ行き渡ることなく、申請が通りやすい事業者や縁故で支給先を決めるなどの場面に遭遇しました。
そしてもう一つ立ちはだかる壁は「既存団体との壁」です。産業振興の分野では、私が関わったよろず支援拠点と並立して商工会や商工会議所、そして県や市の産業振興センター(通称)が、さらに最近では、市や町が単独で予算化した経営相談窓口が存在します。本来の目的や存在意義は産業経済を振興しようとするもので、何の疑いもなく共通です。しかしながら、実態として対立の構図が生じており、組織の存続と権限の維持が自己目的化しているとの感覚を禁じ得ません。事業の合併や買収で大企業ですら事業をリストラする民間とは異なります。
真の地方創生を実践するためには、経済合理性の原則を無視することはできません。一方で、表層的な議論で目先の数値目標の達成に邁進しても本質的な成果に及ばず、組織は疲弊し人の心は離れてしまいます。産業振興の分野で経営相談窓口の1日あたりの来訪件数を指標にするなど目先の定量的な指標だけでなく、定性的な価値判断基準を規定する必要があります。この観点からは、日本生産性本部が呈示する「経営品質」に改めて着目すべきことの必定を感じるに至りました。そしてこれらの諸事情を踏まえた、地方創生の担い手の育成は急務です。