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[全文掲載]地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業(3)

2019.12.16

地方創生カレッジ:地方創生リーダーの人材育成・普及事業

(日本生産性本部茗谷倶楽部会報第77号寄稿文)

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三輪知生(経営塾2期)

3.地方創生に立ちはだかる壁

地方創生においては、前述の通り少子高齢化、人口減少、東京圏への人口の過度の集中といった項目が根源的な課題として挙げられていますが、そのいずれの要素もこの5年間の第一期総合戦略への取り組みで、著しい改善の傾向を見ることはできないと指摘されています。インターネットで検索しても地方創生に関する情報といえば、批判的もしくはネガティブなものが数多く散見されるのが実情です。民間企業であれば結果(=事業収益の確保)にコミットすることは、企業の存亡を決する最重要関心事ですが、行政機関においては事情が異なります。

筆者は認定経営コンサルタントの資格称号を取得し、日本生産性本部コンサルティング部の協力経営コンサルタントとして従事したのち、志あって6年間にわたり産業振興の分野で岐阜県において公的支援の役職に就き、地方公共団体や公的支援機関とかかわってきました。経営コンサルタントの視点で地方自治や産業振興に関わってきたのですが、企業の成長を妨げる要素には三つの壁があるというのが持論であり、その三つの壁について地方創生を担う現場の人や組織に当てはめて、地方創生の制約条件についてこれより言及していきたいと思います。

三つの壁のまず一つ目は、地方公共団体は部署の異動も早く、課題に直面してもどうすれば良いのか分からない、ノウハウがないからできないなどの特性によって直面する「知識の壁」の存在です。知識がなければ、過去を知り、現在を診断し、未来を見通すことができません。この壁を突き破るために地方創生カレッジは開設されていると評価できますが、漠然とした印象ではなく実数を直視して考えるためには、藻谷浩介氏による『「地方消滅」の真相と「地方創生」のあり方』は必修です(有料の講演会の内容を、無料で受講することができます)。

そして二つ目の壁は、新しいことは苦手である、前例を変えることは忌避したいなどのいわば保守的で硬直的な思考特性によって直面する「意識の壁」です。本来、知識が備われば課題解決の方策は見えてくるものなのでしょうが、地方公共団体を職場として選択する個人の根源的な基本姿勢とも相まって、現実を直視することを避けてしまったり、実数を割合に変換して印象を操作しようとしてしまったりと、人の心の中に宿るホメオスタシス(=恒常性の維持)の本能も働いて、最も根深く、とてもぶ厚く立ちはだかる深刻な壁が存在しているのです。

そして三つ目の壁は、部署別に事業費が予算化されており縦割りである、基本的に決算の概念がなく成果が評価の対象とならないなどの特性に起因する「組織の壁」です。地方では優良な企業が少なく、安定した就職先として地方公共団体が存在します。優秀な人材が集約する一方、前述のような思考特性や基本姿勢から、課題に直面すると脆弱な一面が露呈します。表層的な議論に終始して結果にコミットせず、重要課題の方策立案を外部に依存しています。真に地方創生を実現していくためには、これらの制約条件を解消していくことこそが肝要です。

(4)へ続く