これは、公益財団法人岐阜県産業経済振興センター産業振興課ものづくりコーディネーターに応募する際に記述した論文です。私が現在、地方創生に取り組むきっかけとなった、地域の産業振興に取り組み始める記念すべき原点の記述です。
起業推進に関する抱負
平成21年5月22日
三輪知生
グローバル化による激しい国際競争を勝ち抜き、我が国が今後も科学技術立国として世界をリードして競争力を誇っていくためには、学術的な領域においては科学技術を担う人材の育成を強化すると共に、それらの優秀な人材から生み出される最先端の技術シーズを駆使して、世の中のニーズに結びついた付加価値の高い商品・サービスを開発し続けていくという、盤石な社会基盤ならびに仕組みの構築が必要である。
一方で、産業界においては、従来の欧米追従型もしくは先行する成功事例の模倣によって達成された成長と発展のモデルは、もはやその目標たる事例が見当たらない領域にまで我が国は至っており、これから先は自らがリーダーシップを発揮していかねばならず、人材育成の観点からは、自律型人間=課題を発見して自ら考え解決に導いていける、概念化のスキルが高く新しい価値を創出していける人材の輩出が求められる。
「創造型国家の建設を強化し、科学技術の体制改革をさらに進める」とは、中国の温家宝首相の言葉であるが、少子高齢化ならびに人口減少が急速に進む中で、韓国・中国・インドといった経済成長の著しいアジアの国々によって猛烈に追い上げられている我が国こそが、今まさに実行せねばならない危急の課題であり、モノづくり企業に永年に渡って従事してきた者として、切実な問題意識を持つに至っている。
自分はこれまでの職務経験の中で、工作機械メーカー、専門商社、電子部品メーカーと、一貫して日本のモノづくり企業の製造・流通・顧客の3つの立場において、国内営業・輸出入貿易・海外拠点経営のマーケティングおよび経営管理領域で、モノづくりの産業基盤を支える実務経験を積み重ねてきた。そしてその後、企業経営の専門性を高めるべくビジネススクールに学び、経営コンサルタントとしての資格を取得し、コンサルティング活動に従事している。
幸運にも、永年の実務経験で工作機械ならびに製造設備の営業を通して、モノづくりの現場を知り、その生産性の向上、合理化・効率化に寄与する立場にあったことから、自動車・航空機・船舶・建機・医療器・OA・ITといった、日本の産業基盤を支える幅広い科学・工業技術領域に関する知見をこれまで深めることができた。また、経済産業省所管である財団法人日本生産性本部の協力経営コンサルタントであるという職務上、産官連携を自らの身で体現している。
天然資源に恵まれない我が国が、今後も安定的な経済発展を永続的に実現していくためには、先進的な科学技術のもとに付加価値の高い商品やサービスを世界に先駆けて開発・販売し続けることによって外貨を獲得しなければならず、企業間ならびに国際間の激しい競争に晒される外部環境の下で、技術シーズをいかに効率的に産業として確立し、事業の収益に結びつけていくのかについて検証を重ねていくことの社会的意義は大きい。
モノづくりをはじめとした科学技術をその基盤とした産業は、秒単位・ミクロン単位での連続した不断の努力と改善の積み重ねによって競争力を有し、収益基盤を構築することができる真に緻密で繊細な事業領域であり、その現場に身を置いて合理化・効率化、競争力強化をグローバル規模で実践してきた知識と経験は、何物にも代え難い貴重な資源として、現在のコンサルティング活動における企業支援・指導業務の場面で大いに役立っている。
こうした経緯を踏まえ、これまでの職務経験で培ったモノづくりの基盤を支える人材としての幅広い視野での知識と経験、ならびに客観的な価値判断基準を十分に活かして社会貢献していくために、また自らの専門性を高めるうえにおいても、今般、当名古屋大学大学院経済学研究科において「産学連携のあるべき姿の検証」を主テーマとして研究をスタートさせた。そしてこの先は、優秀な起業家の輩出とその支援をライフワークにしていきたいと考えるに至っている。
産学官の真の意味での連携とは、その3者がそれぞれ置かれている社会的立場や思考の特性、ならびに価値判断基準を認識して相手の立場で理解し、相互に補完してバランスを取ってこそ成立する。そしてその主役である技術シーズの供給源たる研究者から厚い信頼を獲得し、将来性に関する明るい希望を抱かせ、不足する経営資源と機能を補い、事業の盤石な経営基盤をその誕生の段階から適切に築き上げていってこそ、起業は成功し企業としての体をなし得る。
起業推進の職務においては、メーカーで培ったモノづくりおよび科学技術に関する深い造詣、商社で培った高い調整能力と目標達成に向けた管理能力、そして経営コンサルタントとしてこれまで培ってきた事業を成功へと導く冷静な判断能力と、人を動かす情熱的で志高い姿勢を遺憾なく発揮し、実践的な成果と成功事例を創出していけるよう自らも日々研鑽を積み、技術を経営に、そして学術的領域を産業界の糧として橋渡しする役目を果たしていきたい。
技術のビジネス化ならびにそのマネジメントにおいては、当該技術の開発者が陥りがちな技術偏重志向を適切にフォローしていくなどの人材育成の視点、事業化に際して最適な規模や段階的な成長を導きだす業務プロセスの視点、マーケティングの専門家として最も重要と考える顧客満足の視点、そして事業としての成功を裏付ける財務収益の視点の4つの視点から起業推進に取り組み、事業計画立案の段階から、成功が可視化できるロードマップを描けるようにしたい。
さらには、世界を相手にビジネスを展開して競合企業との熾烈な競争にも打ち勝ち、国際間においてもフェアーな交渉の元に契約を締結し、我が国の企業に求められる社会的使命を果たすに十分足りうる経営体質を持ち備えた企業を輩出し、経営者の能力を高められるメンター的存在として起業を推進し、起業家を支援していきたいと考える。そのためには自らの専門性をより一層高め、起業家とともに永続的に成長していけるように努力を惜しまない所存である。
以上