地方創生を「しごと」「くらし」両面から支える
恵那くらしビジネスサポートセンター(恵那市)
[全文公開]番組シナリオ
1.背 景
ここは恵那市、JR恵那駅から200mほどの街中にある、恵那くらしビジネスサポートセンター。8月末のオープン以来、連日多くの相談者が訪れる注目のスポットになっている。恵那市が進める「はたらく」「たべる」「くらす」に重点を置いた政策から、支援をワンストップで行う拠点としてスタート。土日も開いており、恵那市民のほか市内への移住を考えている県内外の人々が途絶えることなく訪れる。
ここのセンター長を務めるのは、今年3月まで市内にある有名な老舗和洋菓子メーカーで経営企画や人事総務の仕事をしていた板谷悦三さん。定年退職したことから、長年お世話になった恵那市に恩返ししたいとの想いからこのポストに応募し、一宮市の自宅から毎日通勤している。柔和で温厚な性格から、親しみやすいサポートセンターの顔として日々相談対応に当たっているほか、周知のため出かけることも。
今日の相談者は… 恵那市に移住したのち創業方法を相談する藤村さん。創業すべきかどうか迷っていた処、気軽に無料で相談できる場所があり、具体的なアドバイスが得られたことから、積極的に創業準備を進めることに。そしてもう一人は、経営する飲食店の売り上げアップ策に頭を悩ませている佐藤さん。長野と愛知の県境にある上矢作町から一時間近く掛け、課題解決に向けてほぼ毎週相談に訪れている。
2.由 来
どのような状況で経営しているか、藤井さんが飲食店を経営する上矢作町まで訪ねてみることに。社長であり創業者の父親は料亭で修行ののちに地元で「ふじ吉」を開店。上矢作町はかつては林業で栄え、町役場にも大勢の人々が勤めていたことから、ふじ吉は昼食も夕食も、そして法事でも賑わう繁盛店だった。それが日本の林業が競争力を失い衰退し、市町村合併から役場の従業員も減り、来店客は減る一方。
そうした中、藤井さんは近くの円頂寺にある天井絵「八方にらみの龍」に着目し、集客の起爆剤にならないかと住職も交えて作戦を練っている。この天井絵には、明治維新に廃城になった岩村城より移築されたという歴史的な価値と重みがある。畳8畳分ほどの大きな絵で狩野派の画家が描いたとされ、どこからみても龍が睨んでいるように見えることから、八方にらみの龍」と呼ばれている「雲龍図」が正式名。
龍は仏教を守護する八部衆の一つでもあり「龍神」とも呼ばれており、雲龍図は京都の由緒ある禅寺にも数多く残されている。龍神は水を司る神であることから、住職が仏法を大衆に説くお堂である法堂(はっとう)の天井に龍を描くことで法(仏法の教え)の雨を降らす、あるいは堂を火災から守るという意味が込められている。こうした歴史的・文化的価値のある素材をメニューにも生かそうと知恵を絞っている。
3.本 題
恵那市の未来を考えるには人口減少に歯止めをかけ、働く場所をつくることや働ける場所があることが必要だ。人々のライフスタイルの変化や少子高齢化など外部環境の変化が激しく、都市部では大手流通業の台頭により競争環境も厳しくなるなかで、恵那くらしビジネスサポートセンターは立ち上げられた。従来の業態のままではなかなか事業の継続も厳しくなる中で、変化のきっかけを与えるのが役目である。
恵那市職員も自分のデスクで仕事をするだけでなくサポートセンターに席を置き、訪れる人々の声に積極的に直接耳を傾けて市役所へ持ち帰り、これからの施策として何をすべきか、また近い将来の産業振興ビジョンの策定に活かそうとしている。また、経営の相談と合わせて空き家の紹介などを通して、恵那での暮らし易さについても紹介している。人口減少対策として移住定住者を増やすための取り組みだ。
待っていても事態は好転しない。恵那くらしビジネスサポートセンターは新たな取り組みとして、創業者用のインキュベーションルームを2階に設けようとしている。今日も女性を集めたセミナーが開催されており、女性の起業創業を積極的にサポートしている。始めるにあたっての場所の提供と経営ノウハウの提供という社会インフラを整備して、豊かで住みやすい街づくりに主体的に働きかけようとしている。
4.解 説
地方創生が喧伝されるなか、地方の若い人々は進学や仕事で都会へと流出し、高齢化の勢いは留まる所を知りません。さらに周辺郡部においては少子高齢化の傾向は激しく、商店や社会インフラの維持が困難となっているのが実情です。
ご覧戴いた板谷センター長は、現状を目の当たりにして、お世話になった恵那市に恩返しをしたいと勢力的に相談に対応し、相談者は絶えることなくサポートセンターは毎日盛況となっています。地方の明るい未来を築こうと、暮らしと仕事の両面から、豊かで住みやすい街づくりのために邁進していることが、成功への分岐点になったと云えるでしょう。
完