老舗造り酒屋 X 革新 = 人気観光スポット
有限会社舩坂酒造店(高山市)
[全文公開]番組シナリオ
1.背 景
ここは高山市の旧市街(上三之町)。観光客が行き交う街並みに、人々で溢れ、一際賑わうお店がある。人気のおみやげ物屋さんと思いきや、実はここは、飛騨高山で200年の歴史を有する酒蔵、舩坂酒造店。おみやげ物を売るほかにも、酒蔵の見学はもちろんのこと、レストラン「味の与平」も併設する。
人口9万2千人の飛騨高山は、東南アジアのみならず欧米からの観光客にも人気の観光地として、年間に400万人もの観光客が訪れており、そのうちの10%程度は外国人だ。小京都と呼ばれるように古い街並みが人気のポイントで、外国人の足は日本人が行かないところにまで伸びているほど。
200年の歴史を醸し出す風情ある酒蔵の建物を使ったお土産物店、飲食店、酒蔵見学、数々ある日本酒をその場で味わうことができるバーカウンターと、来店客を飽きさせない、大人から子供まで分け隔てなく楽しめる趣向を凝らした、入り口からは想像できない広々とした店内が人気の秘密だ。
2.由 来
高山市内には江戸末期から明治初頭には140軒もの蔵元があり、北アルプスの名水を活かした酒造りは盛んであったが、現在では6軒と大幅に数を減らしてしまっている。 日本人の食生活の変化から日本酒人気が凋落、また、ウイスキーやワインの人気に押されて消費量が減っていることが原因だ。
舩坂酒造店も、後継者がいないという根源的な課題から2010年にオーナーが変わり、 伝統の酒造りはそのままにも現在は旅館本陣平野屋やレストラン、結婚式場などを経営するアリスグループが事業を引き継いで酒蔵をリニューアルオープンして経営を取り仕切る。
社長の有巣弘城さんはまだ30歳と若手で、旅館平野屋の社長の息子さんにあたる。船坂酒造店の事業を引き受けた5年前は現会長が社長を務めていたが、将来旅館を継ぐために東京のコンサルティング会社で修行中の処を2010年に呼び戻され、昨年より社長として手腕を振るっている。
3.本 題
日本酒の消費量が落ち込む中、日本酒の魅力を世界中の人々に届けたいと考える有巣社長は、あくまでも伝統ある手作りの醸造方法を守りつつ、最近では投資会社による「観光ファンド」を活用して、通年に渡って新酒が味わえる醸造設備を導入するなど斬新な試みも取り入れている。
また、伝統を守るための革新としても、民間から小口投資を募り、その資金で酒米「ひだほまれ」を購入し特別純米酒「深山菊」を仕込むなど、PR広報を兼ねた酒造りにも取り組む。さらに、日本酒を広く親しんでもらおうと、化粧水の分野にも進出し、新商品を開発している。
清酒だけでなく、関市上之保の特産品である柚子を使ったゆず酒「ゆず兵衛」がコンクールで4期連続1位を受賞、シンガポールをはじめとした海外でも人気商品となっている。さらには、上宝のまんま農場で生産される野菜ペーストをあま酒「甘麹」に混ぜた新商品「マイスムージー」もこれからの季節にぴったりだ。
4.解 説
地方の酒蔵はかつて地元の名士を輩出するなど、とても栄えていました。しかしながら、日本酒の消費が大きく落ち込み、規模を小さくせざるを得ないのが現状です。酒蔵ごとに、地元のお米を使うなど特徴のある美味しいお酒を仕込み、選ばれる商品づくりを進めていかなくては、伝統を守り続けることも困難です。
ご覧戴いた有巣社長は、日本酒の魅力をもっと多くの人々に知ってもらいたいとの熱い想いから新たな取り組みに挑戦し、賑わいを創出しています。環境の変化に立ち向かい、柔軟な発想で革新に取り組み、積極的にお客様の声を経営につなげたことが、成功ヘの分岐点になったといえるでしょう。
完